すべてに齧りつく(適わなくても)
ホロウ・シカエルボク




夜を駆逐しよう、潰れた声でも上出来だ、上げない声よりよっぽどの価値がある、夜を駆逐しろ、生温くまといつく夜を、魂の息の根を止めにかかる夜を、潰れた声でも上出来だ、噛みついて引きちぎれ、おまえのポエジーのためにある意地、おまえの人生のためにあるポエジー、ポエットとは本来戦士の名称だ、魂の地雷原を歩き尽くすまではのんびりと寝転がることなんか出来はしない、綴ることで救われた気になんかなるなよ、泣言のために上げる声など言い訳にしか聞こえないものだ、字面を読み上げることに我慢がきかなくなった愚者で溢れる昨今なら尚更だ、すべての故障をさらして、愚者どもの声を聞け、刃先をちらつかせる意地しか持ち合わせていないやつら、おまえのやり口とはずいぶん違う連中だ、相手にする理由など無いはずのやつらを相手にする理由さ、呆れるくらいの底辺を目に焼き付けて覚えておくんだ、「それを牙だと思うのなら死体になって腐敗するまでそう思っていればいい」そしておまえはそんな地平にだけは立つまいと決意するのだ、やり口は無限にある、目を逸らすことさえしなければ、やり口は無限にある、根幹にあるものを理解していれば…意識化の理解じゃなくていい、ただ漠然と感じていればいい、普段の呼吸を意識しないように、根幹など本来理解する必要など無い、ただ、そのことを漠然と感じられていればいい、必要であれば時々、幻のように意識下に浮上してくるのだ、言い訳やお題目をいくつ並べたところでそいつは変えられない、山頂から溢れ出した水は決められた道を流れることは無い、あらゆるところから自由に流れ落ちるのだ、自由を得られないイマジネーションにはなんの意味も無い、観念としての自由ではない、本来の自由と言うやつだ、意味づけなど、決意など、信念など無くても水は流れる、当り前のことじゃないか?溢れ出た水は流れやすい地形を選んで流れていくんだ、それも一度にふもとまで辿り着くわけじゃない、ならばどうする?すべての道を見届けるべきだ、そうじゃないか?どいつが遮られたのか、どいつが飛び抜けたのか、どいつが道に迷ったのか…たったひとつの道だけを選んで胡坐をかいていることなんか俺には出来ないさ、俺は魂の地雷原を歩くために生まれたんだ、たしなみなんかに用はないのさ、バーン!なにかがひとつ爆発して、そいつの破片が心臓まで届いたらそれでお終いかもしれないんだぜ、お終いになることは怖いさ、お終いになることは怖いよ、だけど、お終いを恐れて歩くのを止めることはもっと怖いのさ、水は流れ始めた、もうずっと昔に…俺はそのひとつひとつを辿りながら、初めはどの道が正しいのかと考えていた、だけどそれは無駄なことだと途中で気づいた、「どの道」なんてものはありはしないのだ、それはただ枝分かれしただけのことで、元をただせば山頂で溢れた同じ水、同じイマジネーション、同じ魂―そのことに気づいたときに、本来の自由というものが判ったんだ、どんな風に流れてもいい、どの流れに移ってもいい、戻ってきたっていい、やめること以外はなにをしたって構わないのさ、戦士がウェポンを求めるのは当然のことだ、そうだろう?紙の上のポエジー、観念の上だけのポエジーになんてハナから興味は無いんだ、触れれば血を吹くような強烈なものが欲しいのさ、ずっとそんなものを求めて生きてきたんだ、どんな暗い夜の中に居ても…魂の地雷原で生き残ることは快楽さ、そいつのためなら多少どこかが壊れていたって人生を生きようとするものだ、生来的な欠陥になんてたいした意味は無くなる、むしろそれはなにかを知るためのきっかけにもなる、魂の地雷原の周辺の安全圏をうろつきながらどうにか自分を勇者に見せようとしているやつらは声ほどに踏み出すことは無い、そんなやつらを何人も見てきたよ、そうしてそのたびに思うのさ、そこにだけは居ないようにしようって、もっともっと先に行けるだけの蓄積と欲望を奮わせようって…俺はポエジーの中毒になって、どっぷりと浸かって、怯えるために気高くあろうとするやつらを見下し、潰れた声でも上出来だ、そんなものはただの喉だから…魂の声はやむことは無い、俺のどこかが爆破に巻き込まれたりしない限りは―夜を駆逐するんだ、新しい言葉はまだある、新しい魂はまだある、新しい道はまだある、まだ見つめるべきものがある、同じフレーズも違うように使うことが出来る、選ぶべき道は無限にある、新しい水がまた溢れ出している、吹っ飛ばされたくないのなら歩くべきさ、生き延びるには通り抜けるしかないんだ、欲望には恐怖がつきまとうものだ、まぶしい光を求めればそのぶんだけ、心臓に喰らいつくような夜の牙の痛みを知ることになるのさ、今日も明日も同じ場所に立ち止まって、周囲のやつらに小理屈を叫ぶような真似だけはしないぜ、俺は魂の地雷原に立っている、踏み出さなければ間違えることは無いが、本当の意味で生き残ることだって出来やしない。





自由詩 すべてに齧りつく(適わなくても) Copyright ホロウ・シカエルボク 2015-01-08 01:13:16
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