枯れた花束をお前の寝床と、俺の胸元に
ホロウ・シカエルボク




お前の魂は瞬間に凍りついた、微動だにしない寝室に静かに横になって、崩れかけた廃墟の中に死体のように転がる人形みたいに沈黙している、ライターでしつこく炙られたような煤けた肌、目玉はビー玉のように時間の断層の一点をじっと見つめたまま―それだってとうの昔に飽きているのに…昨日か一昨日か、退屈凌ぎに千切れるほど噛んだ膿んだ舌の先から自白のように溢れ出た血はいつだったか些細なことでこっぴどく殴り飛ばした誰かの顔を思い起こさせた、暴力という分類じゃない、そいつは決して暴力という分類ではないんだ、そいつはあくまで感触による回帰であり、流れた血…血が流れるときに俺が喚起するものがいつでも変わらないということだ…変化の重要性については俺は充分に理解している、変化について声高に叫んで見せる人間たちよりはずっとさ―つまりそれは常に変わらない部分があるからこそというものなのさ…入口がころころ替わる建物の中に入ることが出来るやつなんてきっと数えるほどしか居ないだろう、俺にとってはそうした流血のイメージが呼び起こすものが建物の入口にあたるんだということさ、変化にとって必要なものは常に変化することの無いなにかだ、そいつを欠いたまま成り立つバランスなどこの世界には存在しない、足りない部品で完璧ななにかをこしらえることなど出来ない、仮に誤魔化すことが出来たとしてもそれはそのときだけの間に合わせに過ぎない、変化しない入口から潜り込んで、すべての変化を見届けながらひとつのかたちを見届けなければならない、すべてに目を配ることが大事だ、要らない部分を作り上げちゃいけない、取捨選択はクレバーなやり口のようで時に下手な鉄砲よりも拙い取りこぼしをやらかす、ハナからすべてを見ているなんて考えるからそんな間違いが生じるんだ、どんな上等な目を持っていたところで、俺たちが日常的に目に出来るものなんてそんなにたいしたものじゃないのさ、そこにどれだけの年数が存在しようが、どれだけの手応えが存在しようともさ―頭の中だけの遊びにしちゃ駄目なんだ、頭の中だけの遊びに終始すると安っぽくなって裏で笑われるのがオチさ、だけど、当のご本人は気がつきゃしないんだ、頭を使って一生懸命作ったからさ―だから気づくことが出来ない、そいつが、砂場の砂を集めて固めただけの城だということに…踏みつけるなよ、丁寧に作ってあるから少しも崩して欲しくないんだ―そいつのもっともらしい後書きはそんな悲しさをさらに増幅する、下らない映画にそれっぽい音楽をつけてなんとか一見まともなものに仕上げるみたいにさ…だけどよく聞けよ、大事なことだぜ…作為は作為以上のものを産み出すことはない、あらゆるジャンルのヒット・チャートをざっと捲ってみれば誰にだってすぐに判ることさ―判らないなら口を閉じていなよ、判らないなら口を閉じて、いい子になって眠っているといい…悪いけど俺には必要ないのさ、限界の前でバタ足をしているやつらの言うことなんか…頭の中で鳴り続けるメロディ、白昼夢の如くに繰り返される断片的なイメージの中に、俺はいつでも似て非なる色を見る、そいつが俺を更なる変化に向かわせる、棺桶のような寝床は居心地がいいだろう、なんたってそれ以上なにも考える必要が無いんだから、俺には手を合わせて祈ってやることしか出来ないよ、お前の安らかな眠りを、お前の、愚かな潔さを…



自由詩 枯れた花束をお前の寝床と、俺の胸元に Copyright ホロウ・シカエルボク 2015-01-03 00:29:08
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