冬の午後
藤原絵理子


堆く積まれた 書物は昔のままに 
午後の斜光に 照らされた埃の層は
舞い上がることもない 部屋は死んでいる
窓ガラスは乾いた風に ことこと揺れる


紙魚が食べた詩集には 空洞になった言葉が
希望も絶望も すべては干からびて 黴臭く
風化しきれなかった 情熱は散って
表紙に積もった埃と混ざっている


夜行列車で 独り カントを読んでいた
線路のリズムに 寝静まった寝台車で
薄暗い明かりに 目を凝らして ひたすら独りだった


もう 帰れる場所は 過ぎ去って
心地よく歪曲された 記憶だけが
セピア色の斜光が差す部屋に 閉じこもっている


自由詩 冬の午後 Copyright 藤原絵理子 2014-12-17 22:52:04
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