木屋 亞万

壁に小さな穴が空いていた

落ちていた髪の毛がちょうど入るくらいの穴だったので入れてみた
すると穴は少し大きくなった
折れたシャーペンの芯を押し込んで
しばらくするとまた少し大きくなっていた

飲んでいた紅茶のパックのストローを入れてみるとこれまたすっぽり入った
ストローの先を少しだけ穴から出しておいたのに気づけば無くなっていて
今度は四角の穴になった
四角い物などそうそう見つかるはずがないと思ったら
カバンの奥から弁当を買った時に使いそびれた割り箸が出てきた
入れるしかないだろうと思って押し込んだら
細い先は入ったが真ん中辺りで閊えてしまった
しばらく出し入れしていたが
あきらめてその日はそのままにしておいた
(指に穴を入れてみた時に妙に吸い付く感覚があり
指の先が少し湿っていたことはおそらく私の気のせいである)

翌日には穴は三角になっていて
とんがりコーンが縦に入った
おにぎりせんべいを入れた後には
本物のおにぎりがぴったり入った
袋を開けずに押し込んだら
いつのまにか3つに分かれたビニールが
海苔の欠片とともに落ちていた
穴もお腹が空くのである

さらに次の日には穴はストローの大きさに戻っていた
このまま大きくなる一方だと思っていたのに
ちょうどまたストローがあったので
今度は息を吹き込んでみた
そしたら少し水が出た
口をストローにつけていたので
ちょっと飲んでしまったため気分を害した
水はほぼ無味だったが薄っすら苦味があった

数日後には穴はボーリングの球くらいの大きさにまでなっていた
中は真っ暗で本来見えるはずの壁の向こう側が見えず
ただただ闇が続いていた
奥の様子が知りたくて思わず顔を突っ込んだら
抜けなくなってしまって
みしみしと頭が締め付けられ
少しずつ奥へ奥へと押し進められていく
肩がめりめりと穴に吸い込まれ
顔が熱を持ち
頭に血がたまっていくのがわかった

しばらく気を失っていたが
するんと穴から抜け出た感覚とともに意識が戻り
ぬるぬるする体を大きな手に受け止められた
口を開くと胸へと空気が突き破ってきた
目を開くととてもまぶしい
そうして私は生まれたのだった
以前にいた部屋で何かを学んでいた気がするのだが
その辺りはうまく思い出せない


自由詩Copyright 木屋 亞万 2014-11-08 18:36:41
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