鎮守の森で
イナエ

隣の村とぼくの村の間に 
鎮守の森が有って
鳥居の奥には不思議な気が漂っていた
大きな楠があって 
その前には祠があって 
神様が居るらしい 

子供のころ お願いしたのだが
たとえば
遠足の弁当を お母さんに作らせてくださいとか 
五十メートル泳げるようにしてくださいとか 
助けて貰った記憶は全く無い 

大人になって
神様は居ないと思っていたけれども
お正月のある日 祠の前で
「たまには 金儲けさせてくださいよ」と
愚痴ってしまった

頼んだことさえも忘れた春の宵
道行くぼくは乗用車に襲われ 
宙に飛ばされてしまった
命は助かったが 
宙を飛んで痛い目に遭った代償に
医療費だとか慰謝料だとか送り込まれた

それ以来ぼくは
もう神様には何も頼まない
うっかり口を滑らせて
どこかに潜んで居る神様に聞こえ 
命と引き替えに
金持ちになるのはごめんだから


自由詩 鎮守の森で Copyright イナエ 2014-09-24 19:03:53
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