残らない詩のために
ただのみきや

ぼくらは言葉を繋げて
この暗い宇宙を何処まで渡って往けるだろう
一冊の詩集が時を越えることは
真空パックの棺が難破船のように
意識の浅瀬に漂着し鮮やかに燃え上ることだ
死んだ詩人についての薀蓄うんちくよりも
幽霊の朗読を聞いていたい
星の囁きのように過去は瞬いている
いまも此処に


ぼくらは言葉を重ねて
この白い虚無を何処まで開拓して往けるだろう
一編の詩も残ることなく死んで逝った詩人たちは
野辺に倒れた無名兵士であり畑の肥やし
やがて誰かの不可思議な花が咲き
食べ方も戸惑うような果実が生じる
農夫は死ぬ 詩は時の方舟に乗る
種は遠く運ばれ蒔かれ
黒く湿った心から無数の命が芽吹いては
――繰り返されるのだ そしてまた
ほんの一握りの詩だけが時代を越えて往く


ぼくは言葉を捏ね回し
未来の人々に届く詩を描きたいと思っている
だがそれと同じくらい自分の言葉は
消えて無くなった方が良いとも思っている
美しい言葉が善であるとは限らない
詩が慰めや愛に満ちているとは限らない
詩人やその家族が幸せであるとは限らない
詩が詩のために書かれるようになってから
詩は容易く良心の圏外へと飛び出して往った
詩を愛するとは両刃の剣を呑み込むことだ
あるいは心中
己が死と己が詩 
どちらがどちらを道連れにするのやら
だけど遺書という抜け道くらいはあって良い




     《2014年9月10日:残らない詩のために》







自由詩 残らない詩のために Copyright ただのみきや 2014-09-13 21:35:30縦
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