動乱(真夜中にこそ放たれる)
ホロウ・シカエルボク






夜はまるでペテンのようで、目に映るものすべてがいけ好かなかった、齧りかけの林檎は放置された他殺体みたいでもう口にするつもりなどなかった、脳味噌にしのびこむサッドネスの形態はタペストリー、揺れながら裂傷のような影ばかりを残した、それを示唆と呼ぶのなら多分そうなのだろう、狂気が垣間見せるヴィジョンはたいてい意味ありげに見えるものさ、それはきっと解読することが出来ないからだ、そうだろう、そうじゃないのかい、だからこそそいつにはきっと価値があるんだ、容易いものを美徳とするやつらの中にいると、精神はそれだけで磨耗してしまう、吹雪の中で凍え、眠りながら死んでいくみたいにさ、停止して投げ出しちまうんだ、そんなことになったらお終いだ、人生にはこだわる価値などないのだということになってしまう、愚かしさにかしづき、阿呆のように毎日同じページを捲るだけだ、いいかい、眠くなったからって容易く目を閉じちゃ駄目だぜ、面倒になったから受け入れるっていうんじゃ、人生にはこだわる価値などないのだということになってしまう、解読出来ないものを愛せよ、一口に片付けられないものを、それこそがお前に人生を自覚させるだろうさ、そこにはまだ潜り込む余地があるとそう思わせるだろうさ、上手なペテンなら騙されてやろうって気にもなるものだ、きっとその方が楽しいだろうからさ…テーブルに置いたグラスの中のすっかり温くなった水を一息に飲み干しちまうがいい、そいつがきっと朝までの眠りを保証してくれると考えてみるといい、はぐらかされたってどうせそんなに腹の立つようなことじゃない、転がすための言葉を見つけるのさ、転がすための言葉を見つけるんだよ、意味なんて後から勝手について来るものだ、矛盾を恐れるのは臆病者のすることさ、矛盾のために俺たちは生きているのだから、残らず曝け出すことのほうが重要なんだ、思考だけでカタがつくようなものなら白紙のままで置いといたほうがずっといい、そんなものにはきっと誰も興味を示すべきじゃない、思考は肉体を越えない、思考は魂を越えない、思考は真実を超えることがない、肉体を伴わない思考は愚かだ、安い料理酒しか持ち合わせがないのに美味いステーキを焼こうとするようなものだ…判るかい、それはメインディッシュになるべきものじゃない、頭の中だけでどうにかなると考えているのなら、いますぐギロチンの中に首を突っ込むんだな、脈動出来ない羅列なんかにどんな興味もないぜ、問題にするべきはビートなのさ、速度と深度を語ってみせることさ、そのときその瞬間にそこそこ相応しい言葉でもって、地震計のように記録すればいいのさ、こいつは前にも話したことあったかな、問題にすべきはどれだけそれを記録出来るのかということなんだ、いつだってそれだけでしかないのさ、ペテンのような夜に唾を吐いて、俺は解読出来ないヴィジョンに目を凝らす、懸命になるのは哀しいことさ、だけどそれが出来ないことは哀れなことなんだ、どんなに面倒でも喰らいつかなくちゃいけない、どんなに厄介でも結果を求めなくちゃいけない…容易いものにかしづいたらそこでお終いなのさ、やって来るだけで出て行けない終着駅に降りるようなものだ、もしも少しでも生きようという気があるのなら、逃げ出したくってたまらなくなるだろう、出来なくはないが手段が限定されることだけは考えておくべきだな…今夜はもう一度眠りを逃してしまった、だからこんな話をしているんだ、老人のように仰向けで、死体のように見上げてばかりいることもないと思ってね、少し小さなディスプレイでこれを書いているのさ、道具の状態はなかなかのもんだぜ、適切な状態に潜り込むことが出来るんだ、目を覚まし、耳を澄ませていると…もはや真夜中の歌なんて飽きるくらいに繰り返してきたっていうのにね…だけどそう、結局のところその時間に戻ってきてしまうんだ、思うに俺の身体はそうしたものを無意識に求めてしまうらしい、目を凝らしても見えないもの、耳をそばだてても聞こえないもの、そんなものを捕らえる為の合図がここにはあるんだ、だからそう、簡単に終わらせる訳にはいかないぜ、だからそう、知った風な口をきくわけにはいかないんだ、俺は五感が聞いた言葉しか信用しようと思わないからさ、そうだぜ、ひとつを潰されたらもうひとつのやり方に手をかければいいのさ、どんなやり方をしたってきっとそいつは運命という冠の元にきっと姿を現してくるはずさ…








自由詩 動乱(真夜中にこそ放たれる) Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-09-13 02:53:14
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