うつわ しずく
木立 悟
蜘蛛の糸の生きものが
紙の壁をのぼりゆく
少しずつ少しずつほどけながら
夜の明るさへと近づいてゆく
歪んだ空の台形が
高みの曇に照らされている
斜面が斜面を
金属のように断つ
巨大な 音の無いシンバルが
曇りへ曇りへ向けられている
動きはすべて
色に還る
かわいた器が夜を埋め
夜の色を変えてゆく
変えてゆく 変えてゆく
変えている
開いては閉じる風のあつまり
螺旋を描き 重なってゆく
重なりは蒼に
蒼は透に
雨のなかから
激しく磨かれた曇が現われ
白と黒の夜を映す
静かな静かな 滴を映す