巡りはしないけど、そのような季節が
rabbitfighter

春は唐突に、桜のことを思い出させる。
夏は積乱雲を、
秋は紅葉を、
冬には静電気を、

思い出さない。

それらのことを、別の季節には。
桜の並木道を抜け、
日差しを雲がさえぎり、
紅葉の木の曲がり角を曲がり、
ドアのノブに手を掛けても、

あなたを思い出さない。

言葉で、埋め尽くされた世界に、
季節ではなく、記憶の中に編みこまれた、
公園の滑り台、偶然の三日月、見知らぬ町の図書館、
生まれることや、生み出されたことや、生きることや、生きていくことを、
編みこんで、織り上げて、

あなたを思い出す。

ラジオから不意に、宇宙天気ニュースが流れて、今日も太陽は穏やかで、

唐突に、あなたのことを思い出す。
巡りはしないけど、そのような季節が、あるみたいに。
何度も、何度も何度も。




自由詩 巡りはしないけど、そのような季節が Copyright rabbitfighter 2014-09-08 01:50:20
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