リノケロスの肉球
ハァモニィベル

いかにもその渡世を彷彿とさせる
全身傷だらけで 目の据わった
一匹の猫が 固く舗装された道を歩いてくる
踏みしめる肉球 心は動かない
ただ黒く固い舗道のザラつく感触のみ
彼は自分の中に迷い込んだりしない


ふと 猫は見慣れぬ物体を 自らの導線の先に見つけた
いかにもその渡世を彷彿とさせる 用心深い身体の動きを伴いながら
己しか信じない二つの眸が その物体へと真直ぐ近づいていく
一撃の距離で立止まると  謎の相手の呼吸を伺う
彼は誰かの中に迷い込んだりしない


そこから 彼は物体へと 頭だけを徐々に近づけながら
そおおっ と、 鼻を寄せた
際立つ程にハードボイルドな
その猫の
その痩(こ)けた顔  その鋭い目
そして その・・・油断のない鼻の
すぐ前に・・・!


松毬(まつぼっくり)がひとつ
落ちていた


・・・・・・・・・・・・・・、
・・・・・・・・・・。


まるで、・・・


何事もなかったように
すぐに、もう 彼は
ふたたび歩きはじめた

もう
彼にあるのは
固い舗道のザラつく感触のみ





自由詩 リノケロスの肉球 Copyright ハァモニィベル 2014-08-12 08:05:14
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