金曜日
itukamitaniji

金曜日

バスを降りた途端 夜の町に穏やかな風が吹いて
夏の匂いがするねと 隣の君に僕はそう言った

長いこと僕らの町にあった 小さなスーパーは
ついにつぶされて 無意味にアパートが建つってさ
最近のどの調子が悪いから 最後の買い物に
ハチミツを買いに行くんだと 君は咳をした

まるで土曜日みたいな日だなって
わけわかんないこと言って

いつもの十字路で 「また明日」と言葉を掛け合って別れる
違う向きに同じ色の空を見上げ 離れていく背中が二つ


大きな祭りがもうすぐあって 浴衣を着て出かけたいと
でも休みがないからなって 君は渋い顔をしている
浴衣の君はさぞきれいなんだろうなと 隣で僕は想像して
誰かに連れてってもらいなよって 強がって君に言った

その手を引っ張って連れ出す勇気が
僕にもあったならば良かったけど

僕はひとりきり さみしいうそつきになる決意をする
君への想いを 人知れず心の中にしまいこんだなら
卵みたいに抱えて こっそりと温め続けていく
いつか孵化した 新しい心で君に会うために


いつもの十字路で 「また明日」と言葉を掛け合って別れる
違う向きに同じ色の空を見上げ 離れていく背中が二つ

その坂道の途中 小さくなっていく背中を振り返る体が一つ


自由詩 金曜日 Copyright itukamitaniji 2014-06-01 00:02:01
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