バッターボックス
草野春心



  見知らぬ男が一人
  バッターボックスに立って
  枯れ葉のような色をした 外套のボタンをはずした
  上から三番目、ひどくほつれて、取れかかったボタンだ



  透き通った湖の淵で 私は 動きを止めた水面を見つめる
  青い空と 私は そこでだけは
  一枚の絵のうちに居られるのだが



  ひとつのヒットも打っていないのに
  ダイヤモンドを時計回りに一周すると
  男はぼろいボタンを掛け直してその場を後にする
  風の 細い通り道に 光の雪がふっている




自由詩 バッターボックス Copyright 草野春心 2014-02-09 16:19:04
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