忘れ去られた化石のように
書籍がたちならぶ
黴は 胞子のにおい
博物館の展示品さながら
標本とみまがい、
ここでは もう誰も
紙に書かれた物語を
手にするものはいない
紙の本たちは、死んでしまったのです
死に絶えた本たちのかたわらに
フォルマリンの瓶に浸かった 「 知性 」たちも
ひっそりと
息をころし
外界では、ただ「 情報 」ばかり際限なく
圧縮と増幅をくりかえし
デジタルの 文字の網は、
するがままに
網羅をつづけ、
図書館は、無言の
博物館化されるに まかせ
小声をかわす
少女達の 聖域化された修学場でしかない
人は、紙の本のなぐさむる ぬくもりの質感 と
もたらされる重力に、
物語の 発する引力らしきもの
それを欲するものだと ひとり信じていました
進歩はいつも 旧き人間たちをおきざりにする
慈しみに、
かえすがえす
永遠の 眠りのおとずれの時
この身を、図書館に埋葬していただければ、
本のまにまに 物語のそのうちふところを
わたしは、
そぞろ歩きしとう
ございます