降り来る言葉 LXVI
木立 悟






川辺の泥に倒れたまま
扉はひとりうたっている
烈しい生きものの光が
近づいてくる


夜を焚くむらさき
自らを混ぜるむらさき
羽の切れはしを
こぼすむらさき


研がれた木の通りを
水は滑り降りる
家々の入口はまだ
草に覆われている


光 右
光 石
寒さはまぶしく
午後の手を振る


崖の花が
水に映る
青空が
瀧に落ちてゆく


呼吸の森や鏡の森
少しの震えに曇る森
午後の水たまりに落ちる枝
形骸を残し
どこまでもどこまでも沈みゆく


霧や霞の重なりの底から
かすかに届く光の口笛
石の街の屋根という屋根
すべて異なるしるしを残して


聞こえない荒れ野が聞こえるとき
夜は別の陸地へと去り
径は小指の動きに泡立つ
つづかない橋 流れに
突き立つ橋


茎は茎を行い
花は花を行う
氷室と蝙蝠
晴れた日の雨のにおい


水没した都と平行に
ひとつの部屋が飛んでゆく
泥のような人間と
水草のような人間が
中洲に集い 結ばれる


日常は焦げ臭く
歯の鈴を鳴らす
飛沫は宝石
終わりたくても終われぬ光


はにかみと白
声の響きで変わるいのち
双つの影がゆうるりと
川辺を曲がり 消えてゆく


午後が夜を喰み
残された径には
常に冬の猫が居て
片目の泥を爪弾いている























自由詩 降り来る言葉 LXVI Copyright 木立 悟 2013-10-03 11:18:25
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