東京23色/街の中にいくつも散らばっていく
水町綜助

街の中になくした
放り投げるようになくした
あなたの
多面体のブロックパズルの面が、
そろわないからと
子供のようにわめいて
そろわないままの多面体は
街中の賑わいに似た
何色もの色に塗られているから
もうみつからない

東京23区をななめに横切り
地下をえぐり
渋谷区松濤でなんだか胸糞悪い用事を済ませ
ため息とともに明日の神話
下北沢駅はごっそり内臓を取り除かれ、
いやにスッキリした顔で何人もの人々をそれはスムーズに吐き出している
あの、海へ向かう、
潮風の匂いを思わせる
逆光のガード下で
割られた光がただまぶしいホームはもうない
街は変わる
盗み尽くされたような夜のうちに
布団の中でまるくなって眠っているうちに
どこかで重機が動き回り
誰かと立ち往生しながらいろいろな話をした踏切や
線路沿いのバラック街や
ある日、多面体と通り過ぎ、
高架のうえから眺めた街々を
そこにあった夜と夜と夜とたった一回の昼と
少し悲しいみんみん蝉は東京で
別の街には熱すぎる油蝉の鳴きごえが響いてて
蝉の鳴きごえの違いで分かるという
俺の持論で別々のものに分けた二都市
そこにことし訪れた
意識をぶん投げさせるような暑さの真夏と
肌触りの残滓とTシャツの袖口と
トムカーガイによって流された
隙間を伝う汗
を、すべて奪った

変わっていくことは
失って行きながら
どこかにたどり着くこと
街をでて
東京23区にたどり着いたこと
それとおなじで
そして失うことは
僕にこうして書き連ねさせる

失って行くことを
いとわない
だから手に入れることをいとわない
手に入れることとなくすことは同じだが
失うことはもうあと幾つかを僕に手渡す
だからまず手に入れることをいとわない
まだいまはそれができる

泣くことや裏切られること裏切っていたことしんでしまうことなにかが変わっていくことそれを悲しいと思うこと怒りを覚えることそれを希望と思うことそれを形に変えることこうしてひとつ失ってこのようにひとつ産まれる、こと
それがやってきたこと

そろえたかった色はもう五時には暮れる空の色
そろわなかった色は朝日の中に白く輝く笑い顔
そろったきれいな色たちは、街の中にいくつも散らばっていく




















自由詩 東京23色/街の中にいくつも散らばっていく Copyright 水町綜助 2013-10-01 18:07:00
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