水の言葉、結晶の音
水町綜助






夢中になって
崖から落ちてしまうのを
すくってあげる
夢中になって
崖から落ちてしまうのを
すくってほしい
しなる稲穂の
カーブのような腕で
白い、手
やわらかく
花が咲き、散るさまの
微速度撮影のように
ゆっくりとわらう
確かではない
記憶に焼いた
目線と俺の目

あさ
夜があけて
港湾に
夜、
ひとがあふれて
四角く区切られた
海に、風が吹いて
風紋が塩水をさざ波たてて
壁に当たっては消えていくように
街にすいこまれていく
つま先に当たる
小石が
防波堤から落ちていくのを
朝日を透過する海水が
ゆらゆら踊らせているのを見ている
水に溶ける結晶のかげろうをみながら

砂糖のあまみ
ざわざわと
風に揺れる畑から
少年の持つ鎌で
伐り出されたトウキビ
ぎりぎりと絞られた
甘い水は
晴天の下で
起きた恋にわすれられ
つちけむり舞うあぜ道のうえ
渇き、分かたれた
水と結晶は
青く抜けた空の下
流れながされて

雲は水
街は結晶のようなビル
それぞれ
東京の街をかたどり
水は流すことばを
雲の中に描け
構築していく音に
結晶はひらめけ
まだ僕は水ではなく
君は青いシートにくるまったまま
雨の中
雨にうながされて
つかの間結晶のかけらに
水滴を灯し
ぬれた、ある夜

日めくりはなんども
なんどもめくられた

だれかの喉をくぐった水
だれかの産毛をふるわせた音
そんなことがなんどもなんども続けられた
水路は
いつだってそこにあって
空から落ちるみちもいつも
東京の街はいつだってつながって
何かと何かをつなげているから
会いに行こうとすれば
いつだってだれにだって
だから
水滴となって伝った
街の中へ
河へ
まだ流れ込むことはせず
水にたまり
結晶をとかしたくて
必ずでも
偶然でもなく
ただ選んだ
甘い水
かげろうのような
なつのまえに
ただ、選びました
とかすことと
とかされることを

夏の中
いつか夏に分かたれた
からだを
とりもどすことを
もし選んだのなら
もう
夢中になって
崖から落ちてしまうのを
救わなくていい
選んだことなら
夢中になって
崖から落ちてしまうのを
救わなくていい
しなる稲穂の
カーブのような腕で
白い、手
やわらかく握り
花が咲き、散るさまの
微速度撮影のように
ゆっくりとわらう
確かではない
記憶に焼いた
目線と俺の目を
いま確かなものに
じっと見ている















自由詩 水の言葉、結晶の音 Copyright 水町綜助 2013-07-13 02:31:55
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