月夜の晩、私は、河原の葦になってクレーターをなぞり
ホロウ・シカエルボク




鋭利な刃物で削がれたみたいに二十三夜目の月は欠けて、煮詰め過ぎたジャガイモのようなどろんとした色をしていた、シャーマニズムに傾倒するアマンダは香の立ち込める薄暗い部屋で観念的な詩文を綴っている、時折もぞもぞと発音しながら…彼女の鼻濁音は内耳に針が刺さるみたいにセクシーに届く、俺は草臥れていてただどんよりとソファーに横たわり、すべての出来事が無関係に展開されてはたたまれていくのをただただ眺めている、数ページの小冊子があちらこちらでてんで勝手に開いては閉じられているみたいだ、渇いた口の中に混じる繊維の正体は何だろう?きっと数時間前に顔を洗ったときに顔を拭ったタオルのものだろう…今この時指先に触れないもののすべてが夢の中の出来事のようだ、夢なら俺自身には必要無いし、また向うの方でも俺のことを必要としたりなんかしない、アマンダは時々微笑んでいる、草臥れている俺のことが可笑しいのだ、時代遅れのコンポのトレイに乗っかってるのはジェファーソン・エアプレイン、テーブルで冷えたハーブティー、時々の窓の外で走り過ぎる車の音が聞こえる、セオリー通りで滑稽に感じるのだ、そこに精神性は存在するのだろうか?ある程度はあるかもしれない、シチュエーションにより引き出されるものは確かにあるだろう、だけどそれは言ってみれば受け売りのキャッチコピーみたいなもので、きっとそれ以上のどこかへ辿り着くことは出来ないだろう、アマンダは詩文を綴り続けている、そこに何が書いてあるかなんて読むまでもなく俺には理解出来るのだ、「月夜の晩、私は、河原の葦になってクレーターをなぞり…」俺は寝返りを打って天井を眺める、儀式はまだまだ続くみたいだ、アマンダ、そのうち魔法陣の書き方でも覚えるといいよ、手段は豊富にあって悪いなんてことは絶対にないんだ、君がもしも立派なお屋敷だと考えて御覧、開き戸はなるべくたくさんあった方がいいだろう?俺はそういうものをスピリチュアルって呼んでるんだよ…窓に目をやると月はもう高く上り、色褪せていた、まるで、改心して真人間になった犯罪者みたいだった、俺は月に向かって口笛を吹く、邪魔しないで、とアマンダが小さく俺をたしなめる、俺は判ったと言って寝返りを打つ、アマンダはどんなふうにしてあの、うっとりするような鼻濁音の使い方を覚えたのだろう?何度聞いても聞き飽きるということがない…このところ幼い頃に住んでいた家の夢をよく見る、親兄弟も皆、昔のまともな姿で出てくる、追いかけて捕まえると、もはや容認出来ないくらいの叫び声を上げる、オーケー、勝手にしなよ、眠くなり始めたのでリビングを出て自室にこもった、着替えて、のんびりしていると、あっという間に睡魔は襲ってきた、月の光がここに届いている間に、素敵な夢を見ながら眠ろうじゃないか。



自由詩 月夜の晩、私は、河原の葦になってクレーターをなぞり Copyright ホロウ・シカエルボク 2013-09-25 01:19:11
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