遠景
そらの珊瑚
天気予報が
いい具合にはずれて
空に陽が差してくる
中学校の校庭
トラックに引かれた真新しい白線
「出陣」の文字が描かれた入場門
砂埃の匂いがくしゃみを誘う
テントの下に置かれたキャンプ椅子で
ひとりの父親が完全に脱力し爆睡している
小さなこどもらは早々に飽きて
くるくると追いかけっこを始めた
九月の土曜日
運動会日和り
全員リレーが始まる
カメラを手にして
目を凝らして我が子を探す
全校合わせて約六百人
どこかにいるはずなのだけれど
私は見つけられなかった
娘は見事に遠景に溶け込んでいた
転んで
なんのためらいもなく泣いて
居場所を知らせる児は
もうここにはいない
パアアァーン
第一章の終わりを空砲が知らせた
親は
子を見失うことに
こうやって慣れていくのかもしれない