遠景
そらの珊瑚

天気予報が
いい具合にはずれて
空に陽が差してくる

中学校の校庭
トラックに引かれた真新しい白線
「出陣」の文字が描かれた入場門
砂埃の匂いがくしゃみを誘う
テントの下に置かれたキャンプ椅子で
ひとりの父親が完全に脱力し爆睡している
小さなこどもらは早々に飽きて
くるくると追いかけっこを始めた
九月の土曜日
運動会日和り

全員リレーが始まる
カメラを手にして
目を凝らして我が子を探す

全校合わせて約六百人
どこかにいるはずなのだけれど
私は見つけられなかった
娘は見事に遠景に溶け込んでいた
転んで
なんのためらいもなく泣いて
居場所を知らせる児は
もうここにはいない
パアアァーン
第一章の終わりを空砲が知らせた

親は
子を見失うことに
こうやって慣れていくのかもしれない


自由詩 遠景 Copyright そらの珊瑚 2013-09-19 11:52:10
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