【凪】詩人サークル「群青」七月のお題「風」から
そらの珊瑚

プロペラから
風が生まれる
その中心を
つかんで
風を止められるかどうか
幼いきょうだいが
度胸だめしをしている

扇風機の首振りボタンで
風を分けあって
涼と熱を共有していた
ちりん
南部鉄の風鈴を
通りすがりの風がふれていく

墓を買おうと思うの
海が見える素敵なところよ
母の電話のむこうで
海は凪いでいた

母の父親は
そんな遠いところへ
わざわざ嫁ぐことはないといって
結婚に最後まで反対だったという
ひっこみがつかなくて
結婚式も欠席だったのと
母は笑う
今では新幹線で最寄りの駅までつながっているし
現実の距離は
線路沿いにたどってゆききできる
祖父は
もうおいそれとはいけない
一歩通行の
(行くことはできるけれど帰ってくることはできない)
遠いところへ行ってしまったけれど

時々貨物列車で実家へ荷物を送るために
小荷物をかかえ
駅まで母と出かけた
クロネコヤマトはまだなかった時代
小さな私は木のカウンター越しに
爪先立って
箱が積まれている様子を見ていた
母のおくりものも
手を離れれば
たくさんの積み木のひとつに
組み込まれていくのを

海のない母の故郷の夏は
うんと暑かったという
冬はからっ風がふきあげるくせに
夏には風がどこかへいってしまうと
海のない街にも凪があったという
なにもかも
ときがとまったようにうごかなくなる
そんなじかんが
だれにもおとずれる

麻紐でくくられた荷物には
宛先を記したかすれた茶色の荷物札が
銀色の細い針金で
ていねいにとめられ
ほんの小さな風にさえ
くるくるまわっていた





自由詩 【凪】詩人サークル「群青」七月のお題「風」から Copyright そらの珊瑚 2013-07-21 13:15:01
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