がり かりり
佐々宝砂

血が出るまで掻きむしるかさかさの肌は
乾燥した高地のミイラより無様だ
ミイラになっても美女は美女
みずみずしくてもブスはブス
こたつに半身潜り込んで
少しずつ消滅してゆくなら
どんなにかいいのに
と思ってみる

強く掻くだけで血が滲むこの肉体は
ミイラに較べたらかなりナマモノだが
ナマモノだということは
つまり賞味期限があるということで

鬱陶しいから
ナマモノ商売さらりとやめてしまいたい
人間商売なんか生ぬるい
高村智恵子の二の舞はごめんだね

さあ死に化粧をしよう
短い爪にきんきらの付け爪をつけて
ショッキングピンクで月を描こう
あばらが浮き出て
腹だけが出た
みっともない肉体を
赤と緑でペイントしよう

それから
クレオソートをがぶ飲みして
体内のナマモノも一掃しておこう
臭いがきついが
スカトール臭よりはいくらかましだ

さあ死に化粧をしよう
目の下の隈を
むらさきのシャドウで強調し
黒いルージュを塗り
しらけたアルミの仮面でそれを全部隠し
鋼の貞操帯を装着しよう

がり かりり
私を掻きむしる権利は私のもの
私の身体は私のもの
誰にもやらない


自由詩 がり かりり Copyright 佐々宝砂 2005-01-03 02:36:29
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