「ありふれた」と済まされるお話
ドクダミ五十号

コーティシーちゃんは

御行儀良くお座りしてました

愛想笑いとお手々のひぃらひら

そこは良識と無縁な殺戮の場所なのに

コモンちゃんが匍匐前進でやって来て

それがユージュアルと云うものさと言いました


実はコモンちゃんはさっきまで

センスちゃんと仲良しだったのですが

グッドちゃんが割り込んできたので

面倒くさくなってしまい

弾丸やら砲弾やらが飛び交う中でも

愛想良く 御行儀良く 当たり前に 居る

コーティシーちゃんの所に逃げてきたんですって


グッドちゃんとセンスちゃんは

眉間にシワをよせて

一所懸命に金を箔押しした黒皮表紙の本を

音読して居りました

そうすれば恐ろしい時代が終わるのだと


けれども

終わるどころか

兵隊さんは益々目を血走らせて

口々に俺達はクルセーダーズなのだと

殺戮に励むのでした


豚の旗印を掲げた者が

揃って崖から濁流渦巻く河へと

落ちてしまった事は

自分達には当て嵌まらないと

高らかに進軍の喇叭を吹き鳴らすのでした


あろうことか

オリーブの小枝を咥えた白い鳩が

銃弾で赤く染まり

地に落ちて息絶えるのを

コモンちゃんとコーティシーちゃんは

手を叩いて笑って居りました


グッドちゃんとセンスちゃんは

益々大声で音読し

その激しさで金箔は表紙からひらひらと

剥がれてしまいまして

もはや只のブラックなだけの本は

何の意味も無くなりました

兵隊さん達も気付きはしません


珍しく荒野に雨を降らす様な雲が垂れ込めて

雲間から一筋の階段の様な光が射して

赤く染まった鳩を抱いた

銃弾に倒れた少女が天に向かって

その光をのぼって行きます


本当に悲しい事ですが

善について正直だったのは

召された少女だけでした


自由詩 「ありふれた」と済まされるお話 Copyright ドクダミ五十号 2013-04-04 06:08:54
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