都電病棟
紀ノ川つかさ

あの電線が
鎖に見えはしないか患者達
君達が決して出ようとしなかった
恐るべき街に病棟ごと出ている
ハイキングの歌を歌おう
バイキング気分でさ
バイキンみたいだなんて
もう自分を責めなくていいんだ
都電病棟

窓の外は冬の
茫漠と冷たい風が吹き
凍えて歩く奴らの頭の中は
自己のみを肯定
えり好みを否定
リンゴの実を
健康食品と認定

患者達よ
あれが君達をおかしくした
下らない者の正体だよ
おかしくって おかしくって
おやつくって おやつくって
カッコ三百円以内カッコトジ
都電病棟

自転車押して歩いてんじゃねーよ!
お前電車待ってるふりしてるだけだろ!
電柱が緑色じゃん やべーっ!
王子駅? きゃああ王子様ーっ!
ニューヨークから入浴しに来ました
横幅たそがれ
都電病棟

あの電線が
網の目に見えはしないか患者達
君達は網で救い上げられ
この病棟の中で喜びに満ち
街を走り抜ける権利を有する
「生きる」という名の終着駅に向かって
鉄輪は踊り続けるだろう
網にも引っかからないで
地面に落ちて
バクテリアで腐った果実みたいな
人間が銭勘定して
人形はジェニーちゃんで
ニンニク注射絶対主義
それが君の目にも見えるだろう
都電病棟

まるで走馬灯みたいな景色
まるでソーダ水みたいな空気
まるで葬式みたいな生活風景
まったりと天国へ向かってさ
まったくもって小さな幸せとやらで
満面の笑みなんて浮かべちゃって
地面を這い回る虫みたいな
虫けらみたいな
蛆虫みたいな
あれはみんな正常と診断させられた奴らです

あの中にも偉い偉い作家がいてね
自分達がいかに取るに足らない
下らない屑みたいな存在かと
言葉巧みに綴るんだけれども
どうすりゃそこから脱出できるか
一言も書けなくてね
それゆえ この上もなく
極上の とびっきりの
屑な存在になりましたとさ
洗剤で顔でも洗ってろ虫けら
先生は神様だったヘレン・ケラー
現代の僕達は五感が少々イカれております
自分の力では水の冷たさ一つ発見できないんだよ
だって誰もそこにブランドタグを貼ってくれないんだもの
発見できないんだよ!
発見できないんだよ!
都電病棟

都電病棟は冬の
東京の街をコトコトと走り
患者達はことごとく憎しみと
諦めと悲しみの
まなざしをして外を見ている
何が起きたってもう
不思議じゃないさ
都電病棟
あの電線が
宇宙からの電波をキャッチする
アンテナに見えはしないか
患者達


自由詩 都電病棟 Copyright 紀ノ川つかさ 2004-12-26 09:53:57
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