灰色の水
草野春心



  きょうの朝は、
  灰色の水にひたされている



  人びとは鈍い眼をしてさがしている
  ありもしない排水溝や
  冬の葉のかけら、
  あるいは大切なひとの
  いっぽんの髪の毛か何かを
  きょうの朝、水の底には
  太陽がアメーバみたいな光を落とし
  人びとはそこだけをよけて歩く



  あなたによく似た女のそばを
  誰かの古い長靴が
  ぷかぷかと通り過ぎる
  灰色の水にしずんでゆく
  朝の底で
  わたしのこころは
  単純で
  新円よりも完全な
  ひとつの言葉をさがしている




自由詩 灰色の水 Copyright 草野春心 2013-02-20 22:30:40
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