すてるものはすてられるもの
石川敬大



 つめで
 つめを切った
 むしり取るように千切った
 千切られたつめは
 たちまち丸まって
 干からびて
 ちいさく萎びて不要なものになった

  ――そのようにして
    なん人もの従業員を切った

 いや、ほんとうは
 そんな過程をじっとみているほど暇じゃなかった
 不要とおもえたらゴミ箱に捨てる
 それだけ


 不要なゴミになる


 ぼくは
 幼いころから中学生になるころまで
 大人になったらなにになりたい
 と
 よく母に訊かれたものだ
 大人になったら、と

 ぼくは
 なにになったのだろう
 なにになることができなかったのだろう

 生贄のように身をささげ時間を切り売りした
 会社から
 不要物のようにリストラされ
 捨てられた
 ぼく

 すてるものはすてられるもの




自由詩 すてるものはすてられるもの Copyright 石川敬大 2013-02-10 13:54:50
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