春一番がふいた日に
石川敬大



 まだ肌寒い春の
 朝が
 ひかりのプリズムに屈折して
 すきとおっている

 とおくに海をのぞむ
 住宅団地の縁をめぐる遊歩道を
 愛犬といっしょに回遊しているとき
 かぜが
 ふっとやさしく感じられて
 ひかりがふんわりやわらかく感じられて

  ――そんなときだ
    エスがあらわれるのは

 ぼくらのふき矢がつき刺さったエス
 テレポーテーションする
 メタモルフォーゼする
 なんども死んで
 なんども生きかえってきた
 エス

 じしんが歴史であるような
 夏のにげ水であるような
 エスをおって
 きょうまで
 確信がないままに
 よくここまでおいつめたものだとおもう

 きっとだれにもみえないだろうけれど
 感じることすらできないだろうけれど
 エスは
 いる
 かぜのなかに
 すきとおってやわらかい
 ひかりのプリズムの屈折のなかに




自由詩 春一番がふいた日に Copyright 石川敬大 2013-02-09 18:41:04
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