神の前で
石川敬大


 龍は問うた
 ことばではなく
 ことばにならないことばで
 胸の暗がりで蹲るあらぶるものに
 なぜ
 龍の子は
 ひとを殺めたのかと

 水晶に映される
 流血の惨劇は
 くりかえし
 くりかえされて

 龍は言う
 この律令体制下では
 結果だけが問われ裁かれるのだが
 殺された側に
 なんの非もなかったのか
 と

 応えずに
 龍の子は問う
 ひとを殺めたら青褪めた顔で
 もう笑うことは許されないのかと
 洗ってもおちない汚れた手で女を抱いてはいけないのかと
 涙をながして問うた
 ひとを殺めたら
 群衆のまえで
 全裸になって跪かねばならないのかと

 龍は
 なにひとつ答えられず
 老いて聞こえない耳をふさぎ
 遠くを見る目つきをしただけだった







自由詩 神の前で Copyright 石川敬大 2013-02-20 10:44:51
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