さいごの一枚
石川敬大


 しぬなんておもいもしなかった
 ひとが
 海をみていた
 くっきりカゲを増した
 夕映えの
 不知火干潟で
 たぶん夢中で
 ファインダーをのぞいていたにちがいない
 もえのこる野心と情熱とが
 干潟といっしょに撮りこんでいたから

 しぬなんておもいもしなかった
 ひとが
 きれいな夕映えの干潟から出社して
 嬉しい月曜日になりました
 Hさん
 テーブルに飾られたいくつかの写真を
 ぼうぜんとみつめ
 角島
 南阿蘇
 高千穂峡
 中島川の眼鏡橋
 錦帯橋の夜景
 春には桜を愛でる旅
 にほんじゅうだんしてみたい
 喜々として出かけていたんですよ 父は
 うつむきがちの
 娘さんの横顔がむねにせまって
 おもわずいきをのみました

 Hさん
 カメラを奨め
 果たせなかった約束の
 ぼくのこと
 おぼえていてくれていますか
 またいっしょに酒でも酌みかわしましょう




自由詩 さいごの一枚 Copyright 石川敬大 2013-02-06 14:54:21
notebook Home 戻る  過去 未来