旅情より
HAL

結局 この国が失ったものは
任侠という精神だろう

任侠を暴力団に擦り代えることで
強きものを挫き弱いものを救うという
ひととしてしごく当然のことを

捨て去り邪険に扱うことで
多くのひとびとは不遜にも
任侠を否定することを善と呼び悦にすら浸る

その善がいつしかお年寄りに席を譲らず
ぶつかっても詫びの言葉ひとつも掛けず

なにかが起こるとだれかのせいにしたり
社会や政治のせいだと言うようになって
政治家だけでなく市井のひとも腐っていく

でもだれひとりとして反省や自省の言葉は
そのひとたちの辞書には載っていない
だが楽して得するあざましさには聡い

この国は多くの間違った途を選んできた
そしてまたしても同じ途を選ぼうとする

幸いにもひとびとは賢明だと想わない訣でもない
だけれど今回の選挙率は戦後至上最低でもあった

きっと行使しなかったひとは言うだろう
投票すべき党が見つからなかったからと

でもアメリカ映画《旅情》でデビッド・リーンは
キャサリン・ヘプバーンに向って
ロッサノ・ブラッツイにこう言わしめさせている

『ステーキが食べたくても、ペパロニを出されたらペパロニを食べなさい』と


                                 ※《旅情》の字幕訳は清水俊二氏の引用


自由詩 旅情より Copyright HAL 2012-12-30 10:40:48
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