演奏会の夜
砂木

この曲は アフロ・キューバンのリズムで
と 演奏の方の解説を聞き 苦笑

アフロ・キューバと 聞き間違えて
詩にまでしてしまった 
でもアフリカのリズムである事はあっている
いや別に 勝気に強がる必要もないけれど

今年もやってきた 社会人楽団による演奏会
前日の夕方の ちょっと大きめの地震 
さらに大雪 車は雪で覆われ でも断りきれない残業
会場についた時 演奏は始まっていて

上着と長靴についた雪を払い 
顔も雪でびしょびしょ ハンカチでなんとかふき
クラッシックを聴く上品な客にはほど遠いが
林檎の葉取り りんごもぎと 会社の休みは家を手伝い
それでも楽器演奏を手離さなかった甥を応援しなければ
リズムの名前も知らないド素人でも拍手はできる
と意気込み はじっこにひっそりと陣取った
いけーと トロンボーン演奏中の甥をみつけ心の旗を振る

もし地震がきたら どうしようと思ったが
どこにいても くるものはくる
畑ではしごに登り 作業をしながら音楽を聞き
リズムに乗ると 踊りながら 
林檎の葉っぱを指揮していた甥
いつのまにか 私も葉っぱ楽団の一員のように
甥の音楽人生のタクトに 合わせて揺れる

舞台の上の数十人の楽団の方々が置いている
楽譜の楽譜立てが 銀色の木の絵に見える
白い楽譜を守り 音楽を守り伝え 花開かせるため
無言の輝きを ロウソクの台のように
この世のオリンピックの聖火台のように
命を燃やすために たたずませている
たとえ地震に合おうとも 聴かずにおくものか
雪で前が見えない中も 頑張って運転したのは
そこに音楽を伝える甥が 演奏しているから
林檎畑の音楽人 
豪雪も 病気も 死も 音楽には敵わない
今年は ひとりでも演奏会を聴くつもりだったが

おっ と 私より遅れて夫もきた
今年初めて 演奏会を聴きに来た
どれどれと 甥を捜す
夫も 葉っぱ楽団のひとりになってきている
ソロのパート演奏が 所々に入る
奏者がたちあがり スポットライトがあたり
演奏が終わると 拍手が贈られる
演奏会 初心者の夫も つられて拍手

ああそういえば結婚前に初めて一緒に映画を見たのは
この会場だったね あの時は私の左に座っていた
今は私の右隣で パンフレットをぎこちなく見ている
クラッシックを夫婦で聴きに来るなんて
あの頃 想像する事すら思いつかなかったけれど

年に一度 来るとも限らない会場なのに
誰が建てたかもわからない 造ったかも
企画 演奏 来場 
いつもいつも その場限り 二度とない時間
でも 思い出は 生きる
うたおう いつまでも 拍手と共に



 









自由詩 演奏会の夜 Copyright 砂木 2012-12-16 10:29:43
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