冬のおわりに デッサン
前田ふむふむ

          
喪服を着た父が 部屋の隅にいる
悲しいほど 
とても暗い場所に
かなり寝たので 夢だったのか ひどく汗ばんでいる
耳をふとんにあてると 父が階段を上ってくる気配がした
胸が 訳もなく とても痛い 
でも ドアは 開くはずがない 
父は もう二十年前に死んだのだ

あたまを動かしたら ズキンと痛んだ
下着を替えて 冷却シートを貼りかえり すこし落ちつく
枕元にある体温計を わきの下にあてる
熱は 朝より 下がっていた

母の明るい声がする
おもては 雪が降っているらしい

階下の居間では 慌ただしく 何かが落ちて割れた
一週間前に買った 高価だった
カットグラスではないかと とても気になる

寝返りをすると
三日前から腕がひどく痛い
庭にある
権威的に覆い茂っていた樹木を剪定した
虎刈りのように
すっきりとしたツバキやサツキは
親しみぶかいものに変わった

窓辺には
球根をカップにいれて
育てているが
いっこうに芽が出ない
わたしといっしょで
いつもなにかを待っている気がする

上を見ると
学生の時に読んだ本が
書棚で整列して じっと 見ている
冷たい空気は 草のにおいがした
一面 青い空のなかの芝のうえで 
文学書を読む 少女が
病棟に帰る 
さみしい笑い顔が 
少しずつ草むらに隠れていく
草むらは いつの間にか 暗くなり 見えなくなる

寒さが 布団の隙間からはいってくるので 身体を丸めて眠った

眼を覚ましたら

雨が降っている






自由詩 冬のおわりに デッサン Copyright 前田ふむふむ 2012-12-02 09:34:34
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