父のラジカセ
小川 葉

 
 
昔、秋田の実家を出て、仙台で暮らしはじめた時に、父が大切にしていたラジカセを、私にくれた。
私は、父のラジカセを、しばらく使っていたけれど、CDプレイヤーもついてなかったので、時代の流れと共に使わなくなった。
やがて埃をかぶってしまったそれを、引っ越しの時、もう使わないし、邪魔だったので、処分することにした。
それから十数年経った、ある帰省した時の正月休み、酒がまわった上機嫌な父が、あのラジカセまだ使ってるか?と、不意に私に聞いた。
CDもついてないし、あれは時代遅れだから、捨てちゃったよ、と笑うと、父はすごくさみしい顔をした。
モノは思い出ではないけれど、思い出の背景に、モノは変わらずそこにあるのだと、父は信じてたんだろう。
父はおととし亡くなった。思い出を取り戻したくて、私はオークションで探しまくった。
お金で買い戻せても、二度と使うことはないそれを。
そのかたちあるモノを、父だと思うことはできる。


Victor ステレオラジカセ RC-M70
http://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/166935293
 
 


散文(批評随筆小説等) 父のラジカセ Copyright 小川 葉 2012-11-25 19:48:53
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