月と哭け (三)
アラガイs


ドアを開けると芥子の実が弾けて
ちぎれた海藻が過去を誘き寄せながら
細く尖った肩や腰骨に絡みつく黄土色の髪
紫の影が月の表面を犯す
瞳は補色と死海をさまよい妖しい。
噛んでとばかりに潤んでいた
上着を脱ぐときの息には魔物を吹きかけてやる
おんなは深々とソファーに腰を沈めると、両膝を大きく上に開いて自慰をはじめた
まるで餌を貪る虎が圧し殺す喉笛
微かな響きで赤い指先が口を濡らす
(わたしの淫膿に這うよ
…唾液は生き物を移すから)でも
片時も目のない人形を手放せない子供たち
(ねえ… お願い
そのまま… )背中を丸めベッドに腕をつくおんな
たまらず下着をずらして後ろから挿入する
不安は増すほどに補色と快楽がそれを打ち消し
(大丈夫…中に…出して…
)底のない溢れる沼地
獣と還れ
瞬間が二人に訪れるわ
いまにも折れそうな肋骨が歪み
何度も咽び果てたいま、わたしは宙を駆けている
そこに現実は存在しない
痺れに飢えた狂人が、いつか廃棄された(午後
)おんなが帰る(外は
まだ)月もみえない滑らかな音に弾けていた 。










自由詩 月と哭け (三) Copyright アラガイs 2012-10-18 07:28:49
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