月と哭け (二)
アラガイs


中庭を突っ切れば垂れながしの異臭が鼻を注さしてくる 。
両脇に並んだ板戸を次々と開けどれもこれも汚物にちり紙の山だらけはとても直視できない 。
どこで用を足せばいいのか少ない紙を手に迷っていた 。
いっそのこと中庭の柘植に隠れてひねり出してやろうか
それとも便所の裏手に周りこみ、石垣の縁に立つ金木犀の枝下へとしゃがみこんでは尻をつき動かしながら…
とにかく汚物の中で鼻をつまりながら用を足すことだけは我慢できなかった 。

(いいじゃないか 。済ませたら 。
どうせこれも夢物語なんだ 。 昔は皆がどこでもよくしたんもんだろ)。

便でぱんぱんに張ったお腹をさすりながら考えているときも不思議と痛みは感じられない。
最後に出してからの記憶が失せている
これも妙な話しあまり気持ちいいものでもなかった 。

…見られても言い逃れできるわ
そうよ、誰かれにも
彼処しかないのよ、胸安らぐ綺麗な場所って…

このながされた汚物の跡形も残してはいない奇跡
金木犀に鼻を刺激され女子公衆便所は薫る
トイレの中はやはり居心地はよかった 。
…はじめてだよ。
素っ裸になって用を充たす俺の瞼から
汗と薄い文字が滲む白い壁の下には小さな入れ物が置かれ
描かれた象印の落書きを指先でなぞらえば
ぐっと力むと同時に金玉の毛も爽と靡き
久しぶりにぶりぶりと血も透き通る快便が出たの 。












自由詩 月と哭け (二) Copyright アラガイs 2012-10-16 05:07:31
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