昭和遺文
梅昆布茶

浜川崎から羽田線に乗る
古い高速道路はそのまま川崎大師の大鳥居をくぐり
モースの大森貝塚を三周程して
干し網の漁師たちを驚かす

ようやく京浜急行が高架になり環八がスムーズになっても
森永キャラメルやラムネや
ソースいかの匂いのする町並み

ステテコおじさんなんちゅうゆるキャラが似合いそうな
懐かしい僕の中の昭和史

洟垂れ小僧たちが路地裏を占拠し
世界は怪人とヒーローが活躍する舞台だった

まだ函館に居た頃親父の実家が貸し本屋をやっていて
いとこたちと遊ぶよりもぼくは
ゲゲゲの鬼太郎と多くあそんだ

一家はやがて北から南下し
漫画の買えなかったぼくはともだちの家で
アトムや鉄人や様々なロボットやサイボーグや
眼を見張る科学兵器たちの洗礼をうけたのだ

ぼくは急速に近代化した
行く手を定めぬものそれが民衆の
意思であると否とにかかわらず日本列島とともに
隆起し海没したのかもしれない

極東の少年はやがて
洋楽や珈琲をおぼえ
酒や女に憧れ星空のしたで
バイクのオイルの焼けるにおいと
首都圏のかわいたハイウエイの神経束のうえを

ざらざらの空気を吸い込みながら
風に飛びそうな自分を確かめながら
壁のないたかみさえ
存在の邪魔だとでも言うように

時に肩をそびやかして
煙草をふかしたりも
してみたのだ

そしていかにも知ったフリをしてこう言ったものだ

まんざら生きるのもわるくないみたいだな
なんてね

そしてバイクのタンクでリズムを刻んで
似合いの音楽を
さがしてみたりもしたんだ

やがて時間が時間を呑み込み
時計の針が風化し
ぜんまい仕掛けの人生がゆっくりと
動きを止めるまで

ときどき凪いだ時間が
熱をさましている
間だけでも

アスファルトに記された
僕たちの記憶を
消さないで欲しいと思うのだ





自由詩 昭和遺文 Copyright 梅昆布茶 2012-09-30 11:53:43
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