スティル・ライフ
ホロウ・シカエルボク




だれかがおれを殺そうとするから
おれは必死でそっちのほうへ鉈を振り下ろす
血しぶきを上げてたおれる顔は
おれの知ってる顔であったりなかったりする
表通りで悲鳴が聞こえたことを知っているか?
ゆうべの三時ごろのことだよ
だけどそれはおれの仕業じゃない
だれがなにをやったのかわからない
おれの仕業じゃない
おれはたとえば霧のような感覚のなかで
必死でおれを殺そうとするやつらに鉈を振り下ろす
それは三年ほどまえに道ですれ違っただけのやつだったりするときもある
おれは血しぶきを浴びて
なにかが浄化するのを感じるのだ
それをどんなふうにたとえればいいのかわからないが
たしかになにかの決着がつくことを感じたりするのだ
おれは聖者になんてなりたいと思ったことすらない
あいつらは痛みの無い場所であくびをしているだけだ
数かぎりない連中に鉈を振りかざし
やがて鉈は人間のかけらで出来が悪くなる
おれは鉈を捨てて拳をつかう
あとのことなど考えずに全力で
殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る
かたいものがやわらかくほぐれてくる
おれの着ているシャツはもとの色がわからなくなるほどに赤く染まり
そして関節は衝撃に負けてグラつきはじめる
そう簡単に殺せる武器などありはしない
殺そうと思えばかならずそこには
わが身におなじだけの衝撃が返る
それはおれを動けなくするだろう
いまではなくても、いつか、いつの日か
殺しただけの数に殺されるだろう
それはぴったりと同じ数値で止まるだろう
そうしてだれかが
おれのことを見下ろすだろう
おれはそれを見上げながら
イーブンだ、と言うだろう
イーブンだよ
いつかすべてはみじめな死体となって
そして何事もなかったみたいに灰になるだろう
時間を殺すことは出来ない
おれはいつだってひとつずつ死んでいる






自由詩 スティル・ライフ Copyright ホロウ・シカエルボク 2012-06-28 03:31:50
notebook Home 戻る  過去 未来