ノンフィクション
HAL

もしもだよ いいかいもしもの話だ
きみの読んでいる新聞も時々きみが観るTVも
全部がきみのために創られているとしたら
きみはどう想う

またきみが通っている病院も
そこの医師も看護師さんも
きみが買い出しに行くスーパーも
すべてきみのためだけのものだとしたら
きみはどう想う

またきみの読んできた多くの書物も
聴いてきた音楽すべても
きみが感銘を受けた映画も
きみだけのために創られたものだとしたら
きみはどう想うかって訊いているだけなんだよ

意味が良く分からないって
OK もっと分かりやすく言おうか
この世界はきみだけの舞台で
そこに存在するのはすべてエキストラの
虚像のひとたちで彼等は卓越した脚本家と
才能に秀でた演出家できみのための世界を
創っているとしたらと云うことだよ

それらを神と呼ぶのも
悪魔と呼ぶのもきみの自由だ
でもどちらも正解ではないことだけは
きみに伝えておきたい
正解なんてこの世界には実存していない

余計にきみを混乱させてしまったかな
それならもう少し簡単に言おうか
きみが友だちと想っている旧友も
そんなエキストラとして演じているとしたら
きみが昔に訪れたパリもアウシュビッツも
きみのためにだけ創られた虚構の場所だったとしたら
きみはどう想うんだろうか

もちろん言うまでもないことだけど
きみの嫌いなアメリカ合衆国も
中国も架空の国家でこの世界には存在していない

つまりはね
この世界は虚無一色で
実在しているのは
きみしかいないと云うことなんだけどね

おや顔から血の気が引き始めたね
肌が鳥肌になってきたね
どうやらやっと分かってきたようだね

もしそうだとしたら
淋しいと想わないかい
狂いそうにならないかい
この世界にはきみしかいないことに

冗談だと言って欲しそうな顔だね
でもとても残念だし気の毒だけど
いまきみに話をしているぼくも
オーディションで選ばれた虚像なんだよ

そしてもっと残酷な言葉だろうけど
ぼくが話しているのはフィクションではなく
ノンフィクションだと言うことなんだよ


自由詩 ノンフィクション Copyright HAL 2012-05-07 03:12:13
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