はるについて(ホットケーキ)
木屋 亞万


やわらいだ寒さに薄着で出かけたいあたたかいものをいれた水筒


日を束ね春と呼んではいるものの二度と同じ日は集まらない


だれ一人おなじ人間などいない一回きりの春も同じだ


「つくられたばかりのせかい」に過去として連なる歴史(要検討)の


情報があれば何十億年も300秒もおなじ重みよ


温かいつめの中で逡巡し歓送迎する小さな社会


フライング 薄手のコート 北の風 さくら はなみず 夜の冷え込み


土手にいたゆきんこ雪をまるまるとかためたものをくれた啓蟄


とけかけた雪はぼんやりつめたさのないままあたたかくなって死ぬ


常温でさえもほんのりあたたかかい春について考えている


夜は朝に 雪は花に芽になって 冬は春になった彼岸に


「左様なら」知的なゆきんこ梅になり陽気なゆきんこさくらになった


水分を蓄えぷっくり張り出した蕾が春に漲っていく


やさしさで触れても傷がついていた春について考えている


ゆきんこに「苺がうんだ子は何になるのか」答えられないままの


さよならも言えず会話も尻切れで雪は突然とけていくから


川のようにとらえどころのない流れその全体が私なのです


肌寒いテラスでケーキ食べている常温ですらホットケーキさ


コーヒーの香りを思い出しながら通らぬ鼻でコーヒーを飲む


おやすみのはるいちばんがいない間に春の嵐はやりたい放題


さよならの花散らないでいておくれ春の終わりよD.C. Largo


憂うつな人の抱える優しさに憧れているゆうきがほしい


さまよえば春についてさ君もまた春へとたどりついているかな


春についてケーキを食べて眠くなるあなたの肩が隣にほしい


短歌 はるについて(ホットケーキ) Copyright 木屋 亞万 2012-04-07 19:06:57
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