丸さへの傾倒
こうだたけみ

理科室の骸骨が首を吊って丸さだけになり
一子は念願を遂げた
まるまると太った体を持て余し気味に
廊下をコロコロと転がる
ひとクラス四十二人分の牛乳瓶を運ぶ二人が
一子に出っくわしてぶちまける
ガラスの破片と牛乳をまとわりつかせながら
なお元気よく回り続ける一子は
廊下の突き当たりの扉を押し開けて
非常階段を転げ落ちる
四階建ての校舎を転がりきると校庭に出て
綺麗な丸を描く
もうもうと砂埃をあげて
体についたガラスの破片で土を掘る校庭には
一子の体の分だけ溝ができて
当分野球の練習はできそうにない
野球帽被った男の子が
一番高い鉄棒でくるくると回って
一子の速さに拍車をかける くるくる
掘り出された土は丸の真ん中に積もって
どんどんと高くなる
棒高跳びの女の子がそこへ飛び乗って
飛び乗っては上から踏み固める
数学者になりたい男の子が
溝と土山の間に梯子をかけて
壁面に幾何学模様を描いた
土山は地上と地下に伸びて
長い長い柱となり
一子の意思とは関係なく世界で
一等細長いものとなる

一子は丸でなく
球を描けばよかったのだ
理科室の骸骨は
生きてもいないが死んでもいない
願いは叶わなかった



自由詩 丸さへの傾倒 Copyright こうだたけみ 2012-03-28 01:05:23
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