春について(ホットケーキ)
木屋 亞万

寒さがやわらいできた
薄着でそとにでかけたからか 何かあたたかいものがたべたい

季節はくりかえさない
春とわたしたちがよんでいるもの
一度としておなじ春はこなかった

世界にはいままでだれひとりとして 同じにんげんはうまれてきていない
一度きりの春だから どうにもこうにも一回きり

五分前にせかいがつくられたとしても過去は単なる情報だから
たしかな情報さえあれば何億年も300秒もおなじ重みに思えてしまう

温かさとつめたさの中で逡巡している
送り出しては歓迎している 社会という小さな世界

しばらく寒い時期が続いていたので
温かくなったのがうれしくて薄手のコートで出かけてしまった

土手にすわっていたら隣にゆきんこがすわって雪をまるくかためたものをくれた

とけかけた雪は もうつめたくはなくて
むしろあたたかいくらいだった

常温さえもあたたかかい
春について考える

頭のいいゆきんこは梅の花を咲かせ
美しいゆきんこはさくらの花をさかせた
雪は花になり芽になった
冬は春になった

蕾が漲る
水分を蓄えてぷっくり張り出す

やさしく触れても傷つけてしまう
春について考えている

苺がうんだ子どもは何なのか
尋ねられたまま
答える前にゆきんこは
花になって咲いてしまった

さよならだけが人生だ
川のようにうつろって
とらえどころのない流れのすべてが私です

まださむいテラスにすわって
あたたかいケーキをたべる
常温ですらホットケーキ

コーヒーの香りを
思い出しながら
飲む

はるいちばん
今年はおやすみ
春の嵐はやりたい放題

さよならの花よ 散らないでおくれ
春について忘れるまえに
世界を繰り返してほしい
一回きりは寂しいから

ゆうきがほしい
優しさも憂うつもおなじ生き物だから

春にたどり着いて
もうどこへも行きたくなくなって

春について
ホットケーキを食べて

つい眠くなって
あなたの肩が隣にほしい


自由詩 春について(ホットケーキ) Copyright 木屋 亞万 2012-03-25 01:15:48
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