ひなぎく
そらの珊瑚

少女が恋した相手は舟人ふなびとだった
おかで生きてはいけない
それが舟人

祖先をたどれば
互いに 海で生まれた小さな泡同志だが
海を捨てたものたちは陸人おかびととなり
海にとどまるものたちは舟人となった

少女の父も母も 
住むべき地が違っては
幸せになんかなりっこないと
その恋に反対したが
少女の心は頑なだった

しんと冷えた白い夜
無数の珊瑚が排卵し
月の道が現れた
水晶の舟は すべらかに
少年が漕ぎいだす その櫂に
少女は未来を託した

たった一本のひなぎくを
髪にさし
嫁ぐ日の装いとして

浜辺に佇む老夫婦
波打ち際に ひなぎくが漂う夜があるという
文さえ残さず 消えた娘の
黙って語らぬ たよりだと

冬に
枯れてなくなるようでも
春になれば
そこは
一面花畑
無邪気な ひなぎくの浜 となる







自由詩 ひなぎく Copyright そらの珊瑚 2012-01-18 22:35:40
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