森心あれば
木屋 亞万


この緑色の液体を飲みなさい
毒は入っていなくてよ
揉み解した葉っぱを干からびさせた物を
お湯にひたして体液を抜き出したのよ
人間は森から離れてしまったから
植物液を飲まないと
魂なき野獣になってしまうわよ

発酵させなさい
そうよその豆を発酵させなさい
なかなか香ばしいじゃない
汁を絞り出して固めるのもいいわね
この豆はあなたの血肉となるのよ
覚えておきなさい
太陽を浴びれば滋養は増すのよ

私はね
あなたに生きていて欲しいの
根を張って
土を黒く柔らかく
たもつための存在であって欲しいの
掘り返せば虫が出る
雨が降れば薫る
この森を忘れないでいて欲しいの
大地に根を張ることを辞めたら
鳥になれるわけではないの
架空の存在になってしまうわ
雲と虹
あの子たちはよく泣いているわね

私は渋いのは嫌いだから
汚れを落として
皮を剥ぎましょう
寒空の下つるしておけば
そのうち枯れて甘みも出るわ
女はいいのよ勝手に熟れるわ
じゅくじゅくしてきたら
穴をあけてほじくるように
食べればいいのよ
舌がしびれる甘い蜜に
指と顎を濡らせばいいわ

大地を離れた植物は
もはや植物ではないわ
植物を食べなくなった獣は
獣を食べるしか道がないのよ
大地があなたを縛り付けているように
思うことがあるかもしれない
けれど大地はあなたの身体
そこを離れていくときに
あなたは架空になってしまう
茶の味も
豆の味も
実の味も
すべて忘れて
空へ

あなたが架空になった日に
泣いてくれる存在が
近くにいればいいのだけれど



自由詩 森心あれば Copyright 木屋 亞万 2012-01-12 16:33:48
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