どんなことをして大人になった?
ホロウ・シカエルボク




朽ちた共同住宅の
一室に忍び込んで
凍えながら
急ぎ足の雲を眺めた
夕暮れのせいで
躍起になってるみたいに見えた
どんなことをして大人になった
どんなことをして大人になった?
術のないガキのころ
同じように雲を見てた
窓枠に身体をあずけて
出て行けない犬のように


風は顔を殴り続け
心は悲鳴を上げ続けていた
朽ちた共同住宅から
捨てられた街を眺めていると
人生は
放り出されたところからの戸惑いだと
ふいに
そんなことを思った
太陽が力を無くし
死ぬように消えてゆく時間が
どんな季節でも一番寒い
どんなことをして大人になった
どんなことをして大人になった?
幾つかの火傷だけが
俺をここまで生かしてきた
兎の背を追う
亀のように
俺は懸命だった
何度息を継いで
何度反吐をはいたのか
数え上げたところで
なにも知ることは出来ない


夜が訪れると
もっと沢山のものが見える
過ぎ去った出来事は
みんな亡霊になる
どんなことをして大人になった
いったいどんなことをして
冬でも生きてる虫が鼻先をかすめたとき
誰にその驚きを話せばいい
どんなことをして大人になった
どんなことをして大人になった?
朽ちた共同住宅の
窓枠に身体をあずけて
俺は
思い出せない旋律を見ていた
寒さはわずかに薄れ
捨てられた街は在りし日の夢を見る
そこにない営みからは
ずっと
生きているにおいがする








自由詩 どんなことをして大人になった? Copyright ホロウ・シカエルボク 2012-01-10 21:20:44
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