気持ちいい 穴 さようなら
木屋 亞万

ねむっているとき
ふとんとかさなりあっている
わたしはふとんになっている
あたたかくてきもちいい
わたしとふとんはあたためあう
もうここからはでたくない

わたしのまるまったからだ
ひとつぶんのあなが
かけぶとんとしきぶとんのあいだに
ぽっかりとあいている
いまはわたしがうずまっているが
いつかはここをでていくのだ

あたままですっぽり
かけぶとんをかぶって
ひざをかかえる
わたしはむかし
おかあさんのおなかのなかでも
おなじしせいをしていた

あたたかいみずがみちていて
わたしとおかあさんはつながっていた
あたためあっていた
おなかとせなかのあいだに
すっぽりとわたしはおさまっていた
おなかのなかのちいさなせかい

おなかのなかのわたし
そとがわのわたし
わたしはおかあさんのいちぶだった
きもちのいいあなのなか
ちいさなわたし
つぎのわたし

いつかはそこをでていくのだ
いつかはここをでていくのだ
いつでもどこかから
でていかなくてはならないのだ
さようなら

おなかも
おふとんも
おかあさんも
このからだも
さようなら

ときがきたら
さようなら

きもちいい
あな
さようなら


自由詩 気持ちいい 穴 さようなら Copyright 木屋 亞万 2011-12-14 00:51:43
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