まだ眠らない秋の寝顔
木屋 亞万

世界が死んでいく
街は秋に包まれている
その上空で冬が旋回しており
朝晩につめたい息を吹き込んでいる

秋の煌きは陽射しのやさしさゆえ
イチョウは金色に輝き
紅葉は真っ赤に燃え上がる
枝が鮮烈な色を纏って膨張する
冷え込んでいく街にあって
色彩はなお鮮やかに
冬眠前の樹木の放つ最後の光

同じように春に
枝を桃色に膨れ上がらせたサクラは
幼い葉桜の頃をとうに過ぎて
今では赤い大きな一葉
ちらほらと枝から切り離され
根元に輪になってたまっている
その疎らに残る橙の葉に
自然が持つありのままのバランスを感じる

南天も葉を朱に染めて
つぶらな赤い実が
やわらかな枝をしならせる
稲穂のように頭をたれるその姿は
ちいさな赤い葡萄
あるいは藤の花のよう
この赤いつぶつぶは
もう白い雪を呼んでいる


高く高く空が澄んでいく
明度を増していく空気が
死にゆく葉の色彩を
一層くっきりと浮かび上がらせる
雨の朝も曇りの昼間も晴れた夕暮れも
少しずつ葉は枯れていき
ある日ふっと輝くのだ

毎日街をあるいていると分かる
橙に澄んだ葉が赤く輝く瞬間が
色づいた葉がはらりはらりと
木から離れていくのが
樹木たちはもう眠ろうとしている
一年を終えて
ひとつの命の形が終ろうとしている
春にまた華々しい花とともに
あたらしく芽吹くとしても
その眠りはとてもさびしい

赤く燃える木は
さびしさや未練を微塵も感じさせないほどに
赤く黄色く純粋に枯れていく
ありのまま眠ればいい
たとえそれが死ぬことであっても
そのままでいることはそれだけでうつくしい

風が吹くたびに散る暖色の葉は
終わりの始まりを告げる
樹木の花火

冬はもう見上げればそこにいる


自由詩 まだ眠らない秋の寝顔 Copyright 木屋 亞万 2011-11-30 01:50:04
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