言射し
伊月りさ

迷路をつたう
右手を失って
西とも東ともつかない大地に叫んでいた
からの籾殻のような稚拙を
拾いあげた掌がみえる
その指先は
十の母だ
やわらかいわたしをつついて
わたしは汚泥を吐き続けて
時に
トンネルの多い鉄道で
緑の匂いと 確実な卑小さを知り
周到に南下して
入り口を隠蔽した
いつでも
わたしたちは点滅していたというのに

濡れた砂浜に寝そべって
自分の鋳型をとる
何度も、何度も、
一年も、二年も、
そうしてできあがった
いくつもの水溜りの中に
放られるおひねりで
生活していたというのに

いま
両手が広がる
わたしの右肩は明らかに
導線をみつける
この壁は
水平線よりも
成層圏よりも
隔たった自由
あなたの掌が覆う瓦礫の山は
なんて生命に溢れていることだろう
半世紀近く腰を据えた
壁はぽつぽつと
しかし、余すことなく
小さいものから順に反射させて
あの日、わたしはそれにみとれたのだった
やわらかい壁を
いまなら積み上げられるような気がする

傷口は もう
潮風に痛まない
くいちがい続ける
わたしたちを見失わないように
孝行のように
言葉を止めてはいけないのだ
吹き飛ばされないように
世界をはね返す、はね返す


自由詩 言射し Copyright 伊月りさ 2011-10-29 20:51:17
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