渦潮
伊月りさ


渦巻く
暖流と寒流の出会いを
ささえる
でこぼこの大地は続いている
魚たちは
渦巻かれて
吸引されて
流されて
流されているあいだにも
おしたり
ひいたり
生活は丸太のように切断されている

だれも
波を剥製にできない
消えた砂浜の落書き
テトラポットにはりついた昆布
泥の山
夢のように掲げられた漁船
道を塞ぐもの
わたしたちはだれも
歩んでいかなければならないと
プログラムされているのか
雄大でわずかな風景によって
喧騒を手に入れるのも
目まぐるしい色彩と音量をチューニングして
穏やかな空間をつくりあげるのも
おなじ
わたしたちが
わたしであり続けるため

お台場からフェリーで
この島は
信頼性の高い科学データのような群集
歩幅が広いのか
縮尺が変わったのか
積み上げてきた言葉を
あっさり受け渡してしまいたくなる
きっと
あの沿岸一帯にも
おなじ潮でべたついた
洗濯物や
髪や
ふれあいや
歴史が埋まっている
その上を
歩んでいかなければならないと
法制化でもしなければ
つむった目を開けないのはわたしだけではないはず

週末
お台場からフェリーで
知人がやってくる
その時にはまっすぐに
渦潮をみせたい
多数決の果てに横たわる真っ白な大橋のたもとに
わたしたちの生活をとかして
浮き上がらせて
青磁色の大輪を咲かす
その根は ずっと 北の水底に張りついて
震動を感じながら
だれが水をそそがなくとも
明日をみせている


自由詩 渦潮 Copyright 伊月りさ 2011-11-06 16:29:39
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