瓦礫の上から
伊月りさ


決意は
百円の紙ガムテープから
むかしの恋人に手渡された
曇りの夕方から

はじまる
助手席で息をひそめる狩人は
巻き戻せるようではいけない
くちびるは閉じる
それだけでは
時間はすぐに吹き飛ぶだろう、と
砂を流すように
さぁ
サイドミラーのなかで肥大化する
わたしをさらえ
初犯になるか
初犯にならなければ
はじまりは幼年の向こう側に落ちる
べらべらと
インフレーションの音で
読まれないほどあざやかな本を出し続けることすら
この部屋にさしこんでしまう

鼻はふさがない
服もぬがせない
ただ眼球だけ裏返して
おまえの戦後をさがしてくれ
たとえば夜襲と昇格が築いた家に
あのひとならどんな表札をつけるだろうか
さぁ
骨の間に詰まっている
巡る重量で
はちきれるまで
言葉になってはならないよ

この芋虫を
トランクに仕舞ったまま卵を産む
羽がすべて抜け落ちても
おまえを啄ばむことがあってはならない
瓦礫の上はすべて有精卵でなければならない
そんな決まりごとも
初夏の登頂のように包まれる
大きな風のように
走り去って

赤ん坊のわたしを
組み伏せた細胞にもどる
つながるむずかしさをもっとはりつけて
大きな風のように走り去って


自由詩 瓦礫の上から Copyright 伊月りさ 2011-10-28 14:55:49
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