【 つながれっぱなしの犬 】
泡沫恋歌

つながれっぱなしの犬がいる
中型雑種茶色の犬だ
散歩してるのを
一度も見たことがない

コンクリートの駐車場の中
小さな犬小屋で暮らしてる
動けるのは鎖の長さだけ
その空間の中で
おまえは餌を食べ排便をし
うずくまるように眠る

道の前を通るだけで
牙を剥き けたたましく吠える
そんな おまえが嫌いだった
放置された糞尿の臭いに
いつも わたしは顔をしかめた

やがて おまえは老犬になり
弱って吠えなくなった
暑い夏には憔悴しきって
動かなくなり
死んでいるのかと
立ち止まって
様子を見たこともある

駐車場の片隅で
鎖につながれ 自由のない暮らし
おまえは鎖を外して
外へ飛び出したくはないのか

一度でいいから
広い野原で遊ばせてやりたい
もう先が長くないのに……

つながれっぱなしの犬
おまえが憐れで仕方がないんだ!

ある日
外出から帰った飼い主に
犬小屋から飛び出し
嬉しいそうにシッポを振る
おまえを見た

散歩もさせてくれない 飼い主なのに
おまえはめいっぱい愛情を示す
散歩もさせない 飼い主のくせに
おまえの頭を撫でていた

分からないものだ!
まるで男女の愛のように
他人の尺度では測れないものだった

この犬は飼い主に満足していたのか
だって 他の暮らしを知らないから
毎日ペットフードをくれる 飼い主を
きっと 神さまだと思っているのだろう

ごめんね!
わたしが憐れんだから
おまえは憐れな犬にされてしまった

つながれっぱなしの犬
ホントのところ
名前さえ知らないくせに……


自由詩 【 つながれっぱなしの犬 】 Copyright 泡沫恋歌 2011-10-01 21:42:08
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