【 雨粒 】
泡沫恋歌

降りつづく雨のせいで
部屋の空気が重く感じる
ポツリポツリと奏でる サティのピアノはけだるい
大きめのポットにダージリンティを入れて
ゆっくりと茶葉の広がる時を待つ

雨の匂いと紅茶の香りが混ざりあって
不思議なやすらぎを覚える
そんな雨の日の午後が好きだ

一粒の雨粒が水紋となって広かっていく

あの人から手紙がきた
それは家から少し離れたポストに入っている

まるで迷路のような複雑な記号で出来た
あなたの詩は いつも徒にわたしを悩ませる
『 僕はひどく優しいからとても罪深い 』
人の痛みを知ろうとしない 
あなたは一生優しい人のままで居られる

全てのノイズを遮って祠の中に閉じこもる
少しでも触れようと延ばした わたしの手を 
あなたは冷たく払い除けた
虚しく空を掴んだその手に 一粒の種をくれた
それは創作のエナジーとか詰まった種子だった

良く育つように
良く育つように
そういって わたしのために祈ってくれた

一粒の雨粒が水紋となって広かっていく

あなたから手紙がきた
それは一言添えただけの絵葉書

熱いダージリンティを飲み終えたら
赤い合羽を着て出掛けよう 傘はいらない
雨の中いきおいよく水たまりを踏んで 
小走りで取りに行こう
家から少し離れた あのポストまで

手紙はポストから取り出した瞬間
雨粒たちに掻き消されて 
文字が読めなくなってしまった……
たぶん 
それはあなたのノートの切れはしに
書かれた複雑な記号だったかも知れない



自由詩 【 雨粒 】 Copyright 泡沫恋歌 2011-10-01 07:31:20
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