【 母体回帰 】
泡沫恋歌

ザアー ザアーッと
出しっぱなしのシャワーの音
激しい雨が 大地を撃ち付ける
街も木も人々も
礫のような雨の洗礼を受けている

この雨がどこまで続くのか分からないが
雨の空間に閉じ込められた街は
静かな不安に沈んでいく
水没した低地では
『 希望 』という 
藁をさがして
人々が縋りつく

激しく流れ込んだ水は
濁流となって すべてを呑み込み
潔く 呆気なく 押し流してしまう
小さな 『 優しさ 』なんか
あ という間に食べられた

私は孤独だった
雨の音しか聴こえない
そんな部屋で猫を相手に暮らしている
一日に一度 温かいダージリンティを飲むことだけが
ささやかな生きる望み

そんな中で
亡くなった母のことを考えていた
言いたい コトバがいっぱいあったのに……
何もいえずに見送った
おかあさん! 
思い出をギュッと抱きしめたら
いっそう 孤独な自分と対峙してしまった

滑り込める隙間なんかないんだ
ラプンツェルは待っているだけ
答えなんかみつからない
考えてみたって仕方ない

湿った空気だけが
宙ぶらりんの私を包んでくれる
だから 雨は嫌いじゃないんです

ああ 雨は休むことなく振り続けて
すべてを水没させてしまう
大地を呑み込んだ水脈は
羊水のように 温かく 静かだ
エビのように身体を丸め
胎児に還って 浮かんでいたい 

小さなプランクトンが 
魚になった
這いずりながら 形を変えて 
人間へと進化していった
ホモサピエンス 憂鬱な猿

遥か昔 ナイルの上流から
流れてきた 小石
それは 時の証言者
母の子宮の中で
人類誕生 数億年の夢をみる

心の中にも雨が降る
私はその中に佇んで
雨の音を聴いていた
雨粒たちが
すべての穢れを洗い流していく
カタルシス 魂の再生

傘はいらない 
悔悛の雨に鞭打たれながら
その痛みを全身で受け止めて
一歩 一歩 前へ進もう

いつか 
私も新しい生命に変るから



自由詩 【 母体回帰 】 Copyright 泡沫恋歌 2011-09-27 19:36:58
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